波津の家
敷地は大きな湾の西側に位置し、東側に海が見える場所にある。
建て主はお互いの勤務地の中間ほどに位置するこの場所に居を構えることを決意した。東側には海岸が広がり、海から山へとひな壇状に宅地や田畑が形成されており、計画地は周囲を山に囲まれ、そして、眼下に広がる海を臨むことができる景観の良い場所である。
その反面、玄海国定公園の第三種特別地域に位置しており、景観を永続的に守るべく、新たな建築に対するハードルが高く設定されており、既存建物と同位置、同面積、同階数の建築物しか建てることができないという厳しい条件が課された。
購入時に残されていた既存建物は東側境界線に合わせて建築されており、海に向かうというよりは海岸側を向いていたが、この美しい風景を出来るだけ享受できるよう、位置は既存建物に倣うことになるが、建物軸を少しずらし、湾全体を望むことができるような建物配置とした。
海に近い地域のため、塩害に配慮し、屋根は和瓦(いぶし淡路瓦)、外壁は焼杉を採用しており、瓦屋根と板張り外壁の住まいが多い港町の風景に馴染む佇まいを目指すと共に、長い時間の経過に耐えることができる素材選びに注力した。
メインの空間は建築可能な場所の中で、一番海への視界を確保できる南東とし、大開口から波津の海を一望できるようにし、大自然の豊かさを常に感じることができるようにした。
建物中央部に位置するアイランド型の収納群は、導線を振り分ける役割を担うと共に、高さを抑えることで、視線と光が広がるようにしている。また、本案件では、外皮性能・気密性を高めた上で、14帖用のルームエアコン1台での全館空調を試みた。
冬季は床下に送り込んだ暖気により、基礎コンクリートへの蓄熱を促し、各室に設けた床ガラリから空調を行い、夏季は小屋裏空間を冷房チャンバーとし、各室天井部分のガラリから空調を行う、季節によって方式を変える変則型の全館空調であり、イニシャルコスト・ランニングコスト両面で効果的である。気候変動対策や省エネルギーの観点から、建築の高性能化の流れは今の時代が求めているものであり、不可逆なもので、設計者としてもそれを認めて、受け入れることが必要だと考える。
建築としての強さや美しさといった普遍的なものと、時代が求める性能や省エネルギー性などその時々によって変化していくもの、どちらも妥協することなく、戦う姿勢が問われているのではないだろうか。
建築地:福岡県
建築面積: 99.37㎡
延床面積: 92.74㎡