浦志の家
第33回 福岡県美しいまちづくり建築賞 住宅の部 大賞受賞
敷地は糸島市中心部に位置し、ドラッグストアに近接することから周辺は交通量も比較的多く、人と車の往来が途切れることはない。当該敷地は、交通量の多い東側道路と周辺住民が主として利用する南側道路に面した南東の角地である。周辺宅地は既存住宅の建て替えや売却され、新規宅地分譲等により次々と新しい街並みが形成されている。住まい手はこの地に生を受け、長い時間をこの地で過ごしてきた。そして、これからもこの地に根を張り、暮らしていくにあたり、全てを書き換え、上書き保存するような住まいではなく、今あるものを活かし、その記憶を継承していく、そんな住まいの在り方が望ましいと思い、長くこの地に根付いている杏とマキの生垣を残すことを提案し、建て主も快く了承してくれた。
既存樹木を中心とした植栽帯により、外部からの目線を遮りながら、緩やかに街と繋がり、内部からは豊かな緑を感じることが出来る。2方向の道路に対して建築のボリュームを抑え、低く長い軒により慎ましやかな佇まいにするとともに、全体高さを抑えることで北側隣地に建つ両親の住まいに配慮し、また相互に行き来が出来る配置計画とした。生涯におけるライフサイクルの中で子供が個室を使用する期間は非常に短い期間であること、また隣に両親の住まいがあり、居室も余っていることから、計画当初より個室としての子供室は設けなかった。内部は大きなワンルーム空間であるものの、南側に広く設置したベンチや地窓から庭を眺められる小さな和室、開放的な勾配天井で繋がったロフト等、心地良い居場所を随所に配した。南側の大開口は内外の境界を曖昧にし、豊かな緑を持った外部空間を内部に取り込むことが出来る。外壁や軒天、内部天井、床などは九州産の木材とすることで、地産地消による地域活性化にも寄与出来、玄関ドアや一部サッシも木製とすることで、経年変化を楽しむことが出来るものとした。また、耐震等級3相当の構造とHEAT20G2グレードを超える断熱性能など、建物としてのスペックも妥協していない。小さいながらも内外一体となった居心地の良い居場所が点在する住まいとなった。